Stromata/Charlotte Martin

04年に「On Your Shore」でメジャー・デビューを果たしたシャーロット・マーティン。
父親が音楽の教授で、自身も幼いころからオペラやクラシックを習得してきたというだけあり
シンガー・ソングライターでありながら、ピアノを軸としたオーケストラサウンドの曲は
バッハすら彷彿とさせるような、構成的、規律的な曲構成が印象的でした。
HMVのユーザーレビューで「クラシックの感情表現をポップスで体現しているよう」とあったけど、まさにそんな感じ。
本人のボーカルも高く美しく、声&サウンドそのものはどちらかというと硬質なのに
静かな烈しさというか、鍵盤に叩きつけるように切なく狂おしく歌う、そのギャップがまた魅力でもありました。

なので、このセカンド・アルバム「Stromata」も、その延長線上の作品かと思いきや
・・・度肝を抜かれました。前作のオーケストラ色を一切廃し、広がるのはピアノとエレクトロの融合した新世界。
扉を開けて歩こうとしたら、いきなり4次元の世界でした、みたいな驚き。
宇宙とも精神世界とも知れぬ厳かな浮遊感は、寄る辺がなくて不安になるほど。
時折ジャンベ(アフリカの太鼓)みたいな音がスパイス的に取り入れられているのも、“異空間”感を盛り上げます。
ファースト・シングルの「Stromata」のビデオ・クリップがまた、アルバムの世界観をうまく表現していて
彼女は10代の頃に「Miss Illinois TEEN USA」に選ばれているほどの美人なのだけど
その整ったルックスで、狂気すら感じさせるピアノさばき・・・ある種カルト的な美しさで、男装の魔術師なんてイメージが浮かぶ。
(Utadaの「You Make Me Want To Be A Man」なんかが好きな人はハマるはず)
そして絶望的な愛や別れを歌い上げるシャーロットの歌声が、神懸かり的に美しい。
月の女神はこんな歌声だったんじゃないかと思うような・・・凛としていて、高らかで、汚れなくて。
それでいて、これでもかと感情を弾けさせるさまには、畏怖の念すら抱いてしまいます。
氷の炎は、こんなふうに心臓に突き刺さるんだろうなあ、なんて。
しまいにゃ11曲目「Just Before Dawn」でオペラ歌唱まで。ここまで来ると、完全に彼女の掌の上です。

上記がサウンド=ボディの核だとすれば、精神性の核は“信仰”。
そこかしこに表れるキリスト教の言葉、概念。
そもそもアルバムタイトルの「Stromata」とは、生物の細胞間の間質“ストロマ”の複数形のことですが
科学的な意味だけでなく、宗教的、スピリチュアル的な意味も包含している言葉であり、そこにシャーロットは惹かれたんだとか。
さらに「Stromata」といえば、キリスト教神学者アレクサンドリアのクレメンスが著した教義本の題名でもあり(日本語では「ストロマテイエス」)
語源はギリシア語で“布のパッチワーク”(つづれ織り!)から来ているそう。
どんどん深読み、連想できるタイトルで、思わず遥かな世界に想いをはせてしまいます。
とはいえ本作は、「神様のおかげです、ありがとう」な、いわゆるクリスチャン・ミュージックではなく
信仰を足がかりにして自分自身の内面を掘り深めようとしていて、むしろ哲学的な色合いが強い。
熱心なクリスチャンであれば、己の人格、性格の根幹にキリスト教があるのだから、これも当然のことかもしれません。
シャーロットの歌から感じるある種のストイックさは、このへんにも関係しているのかも。
そして、その集大成ともいえるのが、ラストを飾る「Redeemed」という曲。
ここまでエレクトロを駆使したサウンドだったにも関わらず、装飾をそぎ落としたシンプルなピアノ曲となっています。
静謐なピアノのリフレインは、まるで教会の鐘の音のよう。
信心深い少女だったかつての自分が、現在の自分に問いかけるという、哲学的な歌詞で
サビのフレーズにすべてが集約されていると言える。
“Where is the hand for me to reach?(私を導いてくれた手は誰のもの?)
 Where is the moral I'll never teach myself?”(道徳とは、いつも人智の及ばぬところに存在するもの)
これはちょっと日本、というか仏教的な観点では思いつかない考え方だよなあ。
そして静かに言明する、「どんな暗闇のなかでも、どんな悲しみのなかでも、私は神によって救われてきた」と。
過去の自分をめぐる旅をしながら、信仰という原点に立ち戻ってくる、という曲構成は
聴いているこちらも追体験して、ラストは“神”の存在に一瞬触れたかのような境地に連れて行ってくれます。
この曲は100回連続で聴いても飽き足らないくらい好きです。何度聴いても震える。
ああ、一度でいいからライブで体感してみたいなあ。


So Far Gone/Drake

09年夏の終わり頃から、徐々に名前を聞くようになってきたドレイク。
とにかくすごい新人ラッパーが出てきた、と。
Jay-Z「The Blue Print3」に参加した「Off That」を聴くと、確かに声がずば抜けていい。
23歳とまだ若いのに滋味と艶が両方あって、物語性を感じる声。
正直、ラップより歌のほうが合うんじゃない?ってくらい。
で、物は試しと、ドレイクの顔さえ知らない状態でこのEP(1000円だった)を買ってみたら
スロートーンの夜っぽいサウンドに、歌うようなラップがグッドマッチ。
もちろん最先端のHIP HOP作品ではあるんだけど、どこかレイドバックして、スムースで、でもかっこよくて
ギャングスタ的な従来のそれとは違う、新しい感性を感じさせる好作品です。

スマッシュヒットとなった3曲目「Best I Ever Had」は、EPの中でも一番ポップ。
夏の夕暮れ時のような、開放感と穏やかさをあわせもつトラックに、ホーンなどのスパイスが効いてます。
サビでの美声ラップぶりがイケメン!
でも明るい曲はこれくらいで、あとの6曲はマイナー調のものがほとんど。
オープニングを飾る「Houstatlantavegas」は、都会の夜を見下ろしているような
どこかせつなくしっとりとした、とてもムードある一曲。
ラップより歌に比重が置かれ、聴き手を驚かせるとともに、見事にドレイクの世界に導きます。
続く「Succesful」は、レーベルのオーナー、リル・ウェインと、客演し合う仲であるトレイ・ソングスをフィーチャー。
闇の中でぼんやりした灯りが点いたり消えたりしているような、音数の少ない幻想的なサウンドの中
成功とは何か?金や車や服を手に入れることが成功なのか?という、哲学的な問答が繰り広げられる。
「I just wanna be,I just wanna be successful.」というリフレインが印象的。
EPの全体的な雰囲気は、この2曲に代表される感じだけど
前述の「Best I Ever Had」や、リル・ウェインとヤング・ジージーを招いた硬派な「I'm Goin' In」などを挟み
とてもバランスがよく、ダレることなく聴き通せる作りになっています。

本名オーブリー・ドレイク・グラハム。
テネシー出身のミュージシャンの黒人の父と、ユダヤ系カナダ人の母の下にトロントで生まれる。
少年の頃よりテレビ俳優として活躍し、その後ラッパーに転向。
ゴリゴリじゃない音楽性とか、良い意味の“こなれ感”というか力んでない感じというか
この本名と経歴を見ると、そのへんのルーツに少し納得がいくような・・・。
彼に関する日本語の情報がほとんどないなかで書いているので、見当違いなこと書いてる可能性もあるけど
曲から受ける印象だけで言うと、「HIP HOP界の草食系男子」って感じ。
歌詞の内容自体はどうだかわからないけど、なんとなく、佇まいがね。
オーバーサイズのパーカや金ネックレスより、プレッピーなファッションをさらっと着こなしてしまう新世代感。
実際、Pコートを着ている写真をよく見るけど、似合ってる。
そしてオシャレなイラストのアートワークも新しい。
カニエ・ウエストもそうだったけど、更にその次の世代の到来を感じさせる。
その予感が本物かどうかは、2010年春にリリース予定のフル・アルバム「Thank Me Later」で確かめたいと思います。
今からめちゃくちゃ楽しみです。


Fantasy Ride/Ciara

私が小学生の時、ポケットビスケッツ&ブラックビスケッツが大流行していて
特にブラビの「タイミング」という曲が、深い意味もわからず好きでよく歌っていました。
でもこのシアラのサード・アルバムを聴いて、「♪人生で大事なのはタイミング」って、まさにその通りと実感したよ。
プラス、「二兎追う者は一兎も得ず」ということわざの教えも。
つまり、このアルバムはタイミング失うわ、欲出して何も得られてないわ、ってこと。あえて辛口で行かせていただきます。
シアラ本人のポテンシャル、素材の良さを知っているから余計に悔しいんだわ。

圧倒的なビジュアルの良さとダンス・パフォーマンスで、ポスト・ビヨンセの最右翼と思われていたシアラ。
実際、シンデレラ的な印象の強かったファースト・アルバムから、数々の客演を経て
2006年に発表されたセカンド・アルバム「The Revolutin」は、
キレ味鋭い佇まいと、ふわっと広がりを持つボーカルの両方が進化していて
21歳とは思えないクールさ、ポップ・スターとしての可能性をビンビンに感じました。
きたるサード・アルバムでは、彼女がアメコミ風のキャラクター“Super C”に扮するとアナウンスされ
そのときを今か今かと待っていたわけですが・・・
何故かリード・シングルがチャート的につまずき(個人的にはそんな悪い曲とも思わなかったが)
のろのろしている間に、リアーナをはじめとする後発組にどんどん追い抜かれてしまう事態に。
最後の切り札、ポップ・ミュージック界の便利屋(諸刃の剣ともいう)ジャスティン・ティンバーレイクの力を借りて
「Love,Sex,Magic」でなんとか箔をつけたものの、時すでに遅し。
私もこの曲は好きだけど、それでも目新しさはないし、エロエロなビデオにも余裕が感じられず。
アルバムのアートワークも、当初のSuper C風から、山姥みたいな幸薄そうな写真に変更したりしなかったり
素敵だったロングヘアを、あろうことかリアーナ風のボブカットにしてしまったり
そんなこんなで、アルバムがようやくリリースされた頃には、リスナーが離れてしまっていたという最悪のパターンに。

なので、例にもれず私も一度アルバムを聴いたきり、しばらく放っておいたのですが
改めて聴いてみると、ファンキーででエロくて都会的な「Love,Sex,Magic」や、
しっとりなめらかで女子の共感を得そうな「Never Ever」など、わかりやすいシングル曲以外も、実は結構よくできてる。
アップ・チューンでは、リュダクリスが下世話にガンガン盛り上げる「High Price」や
ダークチャイルドがプロデュースした、高速でスムースに通り過ぎていく「Pucker Up」なんかも良い。
なかでもミッシー・エリオットの鬼才ぶりが久々に炸裂した「Work」が最高!
サビなんて「Work! Work!」の繰り返しだけで、しかもシアラは歌ってすらいないのに
息もつかせぬスピーディーで奇妙な世界に吸い込まれてしまう。
荒涼とした工事現場を舞台に、ハイファッションをまとったシアラが踊りまくるビデオも見ごたえあった。
また、最もシアラらしいと言える、重心低めのちょいハードなミッド・チューン群も充実。
自らを外科医に例える「Like A Surgeon」や、ギャングスタ臭をふりまく「G Is For A Girl」が特に好き。
前者はむわーんと大人のエロスが漂い、後者は印象的に繰り返されるメロディが乾いた響きでカッコイイ。
かと思えば、本編を締めくくる「I Don't Remember」は、かなりライトなポップ・バラードをモノにしています。
(ただし、何故か歌詞は「酒に酔ってやらかしちゃった」系。もっと似合う歌詞があるだろうに・・・)

つまりこのアルバム、曲そのものは決して悪くないはずなのに
方向性がバラバラ過ぎて、一体何をしたいのかわからない、統一感を欠いた作品になってしまっているんです。
この3枚目が勝負!ってことで、シアラもレコード会社も、欲を出し過ぎて迷走したのかもしれない。
もう一回言うけど、曲そのものは決して悪くないから、本当にもったいない。
この教訓を生かして、すでに着手しているという4枚目ではなんとか遅れを取り戻してほしいです。
くれぐれも、半端に収録曲を差し替えただけの「デラックス盤」は出さないように!






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