My Song For You/福井 舞

京都出身、24歳のシンガー・ソングライター福井舞のデビュー・アルバム。
最初に彼女の歌を聴いたのは、悪名高いドラマ「恋空」の第一回エンディング。
興味本位で観てしまったことを後悔するほど、なんの実りもないドラマだったのだけど
テーマソング「アイのうた」だけは、純粋にいい曲だなあ、と思わせる強さがあって。
アコースティックなミッドバラードで、私が普段聴くタイプの音楽じゃないんだけど
曲もいいし、なによりハスキーだけど凛として、さらに温かみのあるボーカルが、とても印象に残りました。
あとで調べてみたら、この曲は別の作家からの提供曲だったんだけど
本来はシンガー・ソングライターとのこと。

で、自分で書いた曲はいったいどういう雰囲気なんだろう?と期待していたら
セカンド・シングル「Lucky」がズッコケな曲で、別の意味で衝撃。
いや、ヒップホップっぽい要素を取り入れた失恋チューンで、曲自体は悪くないのだけど
あまりにもストレートで、ときに稚拙にすら思えてしまう歌詞が、その時点では受け付けなくて。
「自作曲じゃだめな子かしら・・・」と諦めていたところで発売された3枚目「Can Can」。
ヒップホップ、ストリートっぽさをさらに推し進めた、ラブサイケデリコをもっとハードにしたようなサウンドと
それにぴったりなパンチ溢れる歌詞&ボーカル、ドラムを叩き続けるミュージックビデオにまたまた衝撃。
ほんとにエイベックスか!?と確認したくなるような、J-POPらしからぬかっこよさで
私が思っていたよりもスケールの大きいアーティストなのかもしらん、と思わされました。

で、満を持してリリースされたのが本アルバム。
新人らしい荒削り感と素直さ、一方で発信者としてのスケールの大きさが伝わる、非常にハイクオリティな作品です。
基本的に、全12曲どれもよく書けてる!
しかも提供曲や、共作も収録されているのですが、むしろ耳を惹くのは福井舞オリジナルのほう。
冒頭に件の「Can Can」を持ってきたのは大正解だし、アルバムの流れで聴くと「Lucky」もそれほど気にならない。
箸休め的な弾き語りのシンプルなバラード「恋のゆくえ」では、トーンをひとつ落としたせつない歌声がいいね。
基本は、ギターが似合う正統な女性シンガー・ソングライター作品ですが、
本人がネリー・ファータドやナターシャ・べディングフィールドを愛聴してるというだけあり
ところどころJ-POPの枠を超えた、洋楽っぽいエッセンスが取り入れられていて、それがまた自然でいい。
5曲目「Plastic Girls」は、硬質なビートを取り入れた、近未来っぽいクールなサウンドが新鮮だし
11曲目「The Sound」は、音数を抑え、浮遊感とどこか神聖な雰囲気すらある、UKっぽい曲。

そしてラストを飾るタイトル・トラック「My Song For You」。
“今日もあなたを想って泣いてしまったよ”という歌いだしから最後の一句まで
離れ離れになってしまった相手へ、恋しく思う気持ちと感謝の気持ちが、あまりにもピュアにつづられている。
それは男女の恋愛という枠じゃなく、もっとスケールの大きい愛。
実はこの曲、彼女の死んでしまった親友に捧げられた曲だというのを知って、なんだか納得しました。
アルバム全体に流れる、強い肯定感、宣誓、友愛というテーマはここからきたものだったんだろう。
「Peace Friend」なんて、まさにタイトルどおり友情を歌った曲だし。
(仲のよさを表すのに“バジリコがついていたら絶対教えてあげる”って、こんな表現なかなかできんよ!)
新人なのに、という言い方は適当じゃないかもしれないけど、内にこもってないというか
“歌を届けたい相手”の顔がすごくハッキリしているのが、福井舞の強さじゃないかと。
それは別に特定の人物を指すわけじゃなくて、むしろ自分自身へ深い芯を通すことに繋がると思うんだよね。

ジャケットの雰囲気もいいし、ボーカルも曲も高水準のアルバムなので
もうちょっと売れてほしいんだけど・・・そこだけが心配だわ!


SAM SPARRO/Sam Sparro

ロック、ダンス、ソウル、エレクトロ・・・とますます音楽ジャンルの垣根がなくなって
ごちゃ混ぜになりつつある音楽シーンですが、個人的にはそういうゴチャゴチャ感を
いかに“ポップス”として、自分らしく、かつ聴きやすくキャッチーに仕上げるか?というのが
素晴らしいアーティストのひとつの指標だと思っております。
何故か世の中のリスナー&評論家には、ポップスを敵とみなす人間も多くいるわけだけど、私からしてみれば超超ナンセンス。
頭で考えるより先に、体が踊りだす、鼻歌を口ずさんでしまう音楽こそ好んで聴きたいね。

2008年、まさにそんなシーンを体現するような、鮮烈なアルバムを送り出してきたのがサム・スパロー。
アメリカでもUKでもなく、シドニー生まれの26歳白人男子っていうのもなんだか象徴的だわ。
「ニューレイヴ・ファンク」と称するその音楽性は、ビート強めでねっとり、でも弾力性もあって
蛍光のカラーボールが弾けるようにキッチュなアップ・チューンもあれば、漆黒に近い闇色の官能的な世界が広がることもある。
全体にはクラブっぽいサウンドとはいえ、ジャケット通り80'sの香りが随所に立ちこめていて
けっして無機質な印象ではなく、むしろちょいダサな懐かしさ、人肌の湿りけ、音楽への喜びが感じられて楽しい!
日本盤のコピーは“ダフト・パンクmeetsプリンス”らしいけど、
個人的には“自分で歌う、ソウルフルなマーク・ロンソン”って感じ(ルックスもやや似てる)
幼少時代にチャカ・カーンの前で歌を披露したとき、「この男の子は白人なのに歌えるわね」と言わしめたというエピソードからもわかるように
ふくらみがあって、クネクネ柔軟性のあるボーカルが印象的。

ミュージック・ビデオも凝っていて、このアーティストの多面性をよくあらわしている。
ポップな「21st Century Life」は、チープなペーパークラフトの演出とカラフル&ビッグサイズの衣装が
「むしろ前時代風じゃねーか!」と突っ込みたくなるような面白い出来だし
マリファナを使ったあとに喉が渇くことを指すスラングをタイトルにした「Cottonmouth」は
まさに見ている側もジリジリ、ジワジワと水分が抜けていくような、日差し強め・気温高めのロケを敢行しております。
そして特筆すべきは、スマッシュ・ヒットを記録した「Black & Gold」。
リアーナ「Umbrella」とも通じる、じっとり中毒性の高い名曲なのですが、ビデオと合わせるとその威力は倍増。
基本的に80's&ギーク風&ゲイなルックスのスパロー君ですが、ここではガラリとタキシード&シルクハット姿。
殺風景な暗い地下駐車場に金粉の光がまぶされ、同じいでたちの男性ダンサーを引き連れて踊る!
タイトル通りのブラックとゴールドの対比がとても妖しくて、幻想と背徳がゆらめきながら入り混じる。
全体的にわざとスローにしてあるから、じらされてるようで余計に官能的なんです。
絡みも裸もひとつもないのに!

ちなみに、アルバム13曲目「Can't Stop This!」のあとに隠しトラックが用意されているので
これから聴く人はそこも聴き逃さなきよう。
「Still Hungry」というこの曲は、装飾を取り払った、ピアノとボーカルがメインの曲で
そこまで突っ走ってきたアルバム本体の雰囲気とはまた違う、彼の魅力を感じられてお気に入りです。


We Started Nothing/The Ting Tings

独特のチープ&ポップなロック・サウンド、肩の力の抜けたカジュアル感、Voケイティーのキュートな歌声で
新人の登竜門“BBC Sound Of 2008”の3位にランクインされた男女デュオ。
(余談ですがこの年の上位3組は、アデルにダフィーにティンティンズと、女性Vo好きにはたまらんラインナップだ)
地元UKはもちろんのこと、日本でもサマソニ満員、発泡酒のCMに使われたりと、あっという間に人気になりました。
しかし実を言うと、「悪くないけどイロモノっぽいなー」と思って、シングル以外は特に聴かずにいた私。
でも最近、映画「スラムドッグ$ミリオネア」の予告編で「Great DJ」が使われてるのを見て、
粗っぽくもエネルギー溢れる、鮮やかなインドの映像とぴったりだなあと感心しまして。
(ちなみに予告編の後半は、Snow Patrol「Chasing Cars」! 選曲した人、ニクいです)
改めてアルバムを聴きなおしたら、これがまたよくできたポップ・アルバムなんだわ!
いや、やっぱり全体的にはチープだし、イロモノ感も否めないし、大物!って感じじゃないんだけど
すごくイマっぽいし、なのに個性があふれてて、コンパクトながらよくまとまってて。
女子の気分をよくとらえた歌詞も、予想以上にいい感じ。
遅いよ!って感じですが、そんなわけでこのところのへヴィーローテーションです。

冒頭の「Great DJ」から、一気にティンティンズ・ワールドへ引き込まれる。
おもちゃ箱をひっくり返したような、というよりもさらにその乱雑空間の面積は広く
転がってたスプーンとかフォークとか、鍋のフタで演奏してんじゃないの?と思わされるガチャガチャ感。
サビで、ほとんど「アー」とか「ドラムス」としか繰り返していないのに
そのカラッとした突き抜け加減が最高に気持ちいい!
私が今高校生だったら、体育祭の準備体操の音楽は間違いなくこれにするよ。
続く「That's No My Name」も、これまたわかりやすいサビのアップチューンだけど
「あたしはステイシーでもジェーンでもリサでもない!“彼女”って呼び方も嫌!それってあたしの名前じゃないわ!」
という歌詞にこめられたメッセージが、思春期女子の気持ちを実によく表しているなあと思います。
このバンドの原動力はフラストレーションとのことだけど、確かに歌詞にはイライラやムズムズがたくさん描かれている。
でも曲として完成させたときに、相反するような陽気なサウンドになっていて、そこがユーモラスで面白いところ。
怒りを怒りとしてそのままぶつけるのではなく、余裕のあるヒネリが新世代っぽいんです。

このままの勢いで最後まで突っ走るかと思いきや、南国の夕暮れチックな「Traffic Light」や
物悲しげなピアノのイントロが印象的な、気分の晴れない「We Walk」など
緩急の“緩”のほうの曲もバランスよく収録されていて、飽きさせない工夫もしっかり。
中盤のハイライトは、駆け足気味なのに、サビで風通し良く視界が開ける「Keep Your Head」かな。
ラストを飾るタイトル・トラックが、サウンド的にはガチャガチャ度MAXなのに
「We Started Nothing(=今日も何も始められなかった)」っていうテーマなのも、なんか皮肉が利いていていいね。

雑誌ではパーティーのBGMに!って紹介されることも多いアルバムだけど
個人的には楽しいパーティーの最中じゃなく、平日の出勤前、憂鬱なメイクの時間のお供として聴きたい。
大勢でシェアするというより、ひとりで聴いて、今日もまあ頑張るか!って
誰かに会う前の自分を、悪態さえも笑い飛ばしながら、ギュイーーンってアゲてくれる作品なのです。





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