Headstrong/Ashley Tisdale

2006年、アメリカのディズニー・チャンネルで放送されたドラマ「ハイスクール・ミュージカル」。
夢と友情と恋をテーマにした、ピュアなティーン向けの超健康的な内容でしたが
この年になると“美男美女で性格も良くて天才的に歌がうまい”なんて設定の主役組
(実生活でも交際中のザック・エフロン&ヴァネッサ・ハジェンス)にはまったく興味がわかないわけで
代わりに「おお!なにこの娘!!」と興奮させられたのが、シャーペイ役のアシュレイ・ティスデイル。
“幼稚園の頃から毎回ミュージカルの主役を演じてきた、目立ちたがり屋の金持ちギャル”で
主人公たちの行く手を次々に邪魔する・・・という、古典的なライバル役のシャーペイを
ユーモラスに、チャーミングに、楽しみながら演じており、それはもう主役を食う芸達者ぶり。
劇中で展開されるミュージカルがまた、クラシカルで可愛いのだよ。

そんなアシュレイちゃんのソロデビュー・アルバムが今作。
ここ数年、新人アイドルは皆ポップ・ロックを歌わされてきましたが、ようやくそのブームも下火になり
このアルバムは久方ぶりのアイドルの王道、バリバリのダンス・ポップだったもんだからまた興奮!
キャッチーなメロディ、やや大仰なサウンド、キュートな歌声・・・やはりアイドルはこうでなくては。
8歳の時から舞台で鍛えてきただけあり、歌もダンスも充分上手なアシュレイ。
しかしなにより彼女の強みは、それに加えて“隣の女の子”的な親しみやすさがあること。
正直ルックスもずば抜けているわけではないし、どちらかというと器用貧乏な印象すらある彼女だけど
妙に大人っぽくすれることもなく、真面目にアイドルしてるのが非常に好感度高い。
もちろんシャーペイのイメージを裏切るような、「He Said She Said」のような挑発的なナンバーも収録されてるけど
本人の持つ清涼感と声質のおかげで、良くも悪くもあんまりエロくない仕上がり。
優等生の割に色気ふりまいてたガブリエラ役のヴァネッサと違って、この娘は女受けタイプなんだろうなあ。
アイドルらしいバラードも数曲あるけど、恋愛をテーマにしたものよりも
自分の現在の心境を歌った「Suddenly」が一番感動的な出来なのもなんかわかる感じ。

ジョナサン・ロテムやダイアン・ウォーレン、マトリックス、カラ・ディオガルディなど
有名プロデューサーたちの職人芸を聞き比べるのも楽しいこのアルバム。
(「Unlove You」のクレジットには、「Naked Truth」のサラ・ハドソンの名前も!)
インタビューで「将来はコメディエンヌとしてエミー賞を獲りたい!」と語っていたし
個人的にも、もっとミュージカルっぽい路線の方がアシュレイの個性を伸ばすとは思うんだけど
ディズニー出身アイドルのデビュー盤としては、これはこれでお手本的な作品です。


Gulag Orkestar/Beirut

私にしてはちょっと珍しい、インディー・レーベル発、非メインストリームのCDをご紹介。
パッと見では読みづらいこのアルバム、タイトルは「グラグ・オーケスター」。
ザック・コンドンという若干21歳の男の子によるプロジェクト、ベイルートのデビュー・アルバムです。
オフィシャル・バイオによると、ザック君は成績優秀だったにも関わらず、高校を中退して単身で東欧に。
そこで受けたインスピレーションを元に、音楽編集ソフト「Pro Tools」のみでアルバムをまるごと一人で制作したところ
音源が4ADのA&Rの耳にとまり、あっという間にデビューとあいなりました。
そして2006年に発表したこのアルバムは各方面からの絶賛を浴び、
あのナタリー・ポートマンやスノウ・パトロールのゲイリーも今や彼のファンだそう。
このプロフィールを聞いただけで、いかに天才肌のアーティストかというのがわかりますが
実際このアルバム、天性のセンスと才能が自由奔放に生かされた、非常に味わい深い一品です。
ジャンルはなんていうのか、SSWでワールド・ミュージックでフォークで・・・
ジプシーやキャラバンを連想させるような、エキゾチックで哀愁漂う音楽。
例えるならおばあちゃんの古ぼけた宝石箱を開いたら、中の人形がギコギコと奏でだすような
懐かしいんだけど何故か少し哀愁漂っていて、でも惹き込まれてしまう、そんな感じ。
アコーディオンの物悲しい音色が、一瞬にして遠い異国へと連れ去ってくれるよう。
ザック君の歌声も21歳とは思えないほどで、カカオの濃度高めなチョコレートのほの甘い苦味が。
かと言って伝統的な音楽をそのまま演っているのではなく、影響をたっぷり受けつつも
現代の感性で新たに解釈し、別のものへと昇華させているのが、上で“天性のセンスと才能が自由奔放に”と書いた理由。
オーケストラを用いたサウンドは贅沢だけど、決していかめしいわけではない。
あくまで「個人の趣味」といった趣きで、気さくで親近感の持てるもの。
たとえば「Scenic World」は打ち込み電子音と生楽器のブレンドで軽やか&ポップな仕上がりだし
前半はウクレレとパーカッションだけのミニマムな構成で、歌声もフランクなのに
後半ぐわっと音が増えて、表情を変えてみせる「The Bunker」も面白い。
ボーナスディスクの「My Family's Role In The World Revolution」なんかはバンド的要素が強くて
ピアノが駆け出すイントロ、それを追って掻き鳴らされるオーケストラ、
そしてまた単独で鳴るピアノ・・・話し声なんかも入っていて、ジャムってる様子が好ましい。
こんな風に次々と、繰り広げられる独創的な音楽世界。
このひとりの青年の頭の中が、飛び出す絵本のようにめくられていくのを目の当たりにできるのです。
アルバム本編&ボーナス・ディスクの、計16曲の出会いと風景と情緒に満ちた旅。
ラストを締めくくる「Carousels」、素晴らしい余韻を残してくれるこの曲が私は本当に好き。
移動遊園地からだんだん人が引いていき、最後は無人のメリーゴーランドが風にゆられているような
いつも旅の終わりは少しせつなくて、色んな想い出が駆け巡るけれど
同時にひとまわりたくましくなったような、不思議な充実感をもたらしてくれる。


Good Girl Gone Bad/Rihanna

“つまり、リアーナ自身のスターを目指す覚悟と準備は万端だというのに
一番大切な音楽がぶれていることが、勿体無いということ。”
これはセカンド・アルバム「A Girl Like Me」発売時に、私が書いたレビューから抜粋した一文。
ポテンシャルがあるにも関わらず、アルバムがやや散漫な内容に終わったことに苦言を呈したものだったが
どうやらリアーナ、もしくは関係者がこれを読んでくれたに違いないね(バカ)
なにしろ約1年経って、今年発売されたサード・アルバム「Good Girl Gone Bad」
これがまさにセカンドの不満を払拭してくれる、ほぼパーフェクトな出来だったんだから!

まず、全英10週連続1位、全米7週連続1位という偉業を成し遂げた先行シングルの「Umbrella」。
ミュージック・ビデオ、モードな黒髪ボブで革ファッションに身を包んだリアーナの発する隠微なオーラといったら。
このビデオでは裸ボディペイントにも挑戦し、当初はその印象が強すぎて曲は役不足?と思ったけど
どっこい、聴けば聴くほど「エラ、エラ、イー♪」のフレーズが頭から離れなくなっていく、呪詛のような凄まじい曲。
クリス・ブラウンやリル・ママによってリミックスが多数作られている状況は
2004年の50セント「In Da Club」のブーム時と同じようなものを感じる。
この曲の面白いところは、単に歌が上手けりゃ歌えるというわけではなくて、リアーナの独特の声あってのものだということ。
ポップスとしてはマイナスになりかねない民族楽器のような声を、ここでは上手く逆手にとってる。
この曲、元はブリトニー・スピアーズに提供される予定だったらしいですが
ブリトニー側がスルーしたおかげで、リアーナに回ってきたというエピソードが。
ここで思い出すのがブリトニーの「Baby One More Time」で、実はこの曲もTLCが歌う予定だったんだけど
彼女たちが難色を示したために新人のブリが歌えることになり、結果的には大ヒット。
やっぱり勢いのある人にはそういうラッキーが回ってくるんだなあと実感させられる。
他にも、スターゲイトによる四つ打ちハウス(!)「Don't Stop The Music」や
男の不実に怒り、「警察が来ない限り止めないわよ!」と夜中に皿を割りまくるアメリカ版番町皿屋敷「Breakin' Dishes」
「Who am I living for...?」と呟くようなサビが最高に暗い「Question Existing」など
まだティーンの陽気さ、あどけなさが残っていたファースト、セカンドと比べ
シャープ、ディープ、ダークといった、“夜”や“大人”をイメージさせるようなキーワードが満載。
とはいえあくまでポップ・マーケットを意識しており、息抜きのバランスも絶妙。
New Order「Blue Monday」をサンプリングした「Shut Up And Drive」は、疾走感の強いロック風のナンバーだし
「Sell Me Candy」では流れるようなサビ、畳み掛けるボーカルでスムースにあげてくれる。
ティンバランド制作のレゲエ風味「Lemme Get That」は、太いベース音が気持ち良い曲。
そしてNe-Yoとデュエットした「Hate That I Love You」!いかにもNe-Yoらしい、陽光溢れるアコースティックなバラード。
Ne-Yoとリアーナ、正反対の声質がサビで絡み合う瞬間はゾクゾクくる気持ちよさです。

正直デビューから数年、まだ10代なのに、ここまでジャンプアップできるとは思ってなかった。
R&Bスターどころか、その枠を超えてポップ・スターになり得ることを証明してみせたリアーナ。
私が予想していた以上のポテンシャルで嬉しい限り。末恐ろしい娘です!





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